「バーチャルツアー」——聞いたことはある。だが、自社に何をもたらすのか
展示会で「バーチャルツアーやってます」と隣のブースが言っていた。建材メーカーの事例記事で「Matterportで3Dスキャンしたショールーム」という言葉を見かけた。不動産ポータルサイトでは、物件紹介にバーチャルツアーが当たり前のように埋め込まれている。
だが、こうも思ったのではないだろうか。
「で、うちの会社に入れたら、具体的に何が変わるの?」
本記事では、バーチャルツアーの代名詞とも言えるMatterportの技術を軸に、「何ができるのか」「建設業界でどう使われているのか」「導入するとしたら何から始めるのか」を整理する。
Matterportとは——空間をまるごとデジタルに変換する技術
Matterportは、実際の空間を3Dスキャンしてデジタル上に再現する技術プラットフォームだ。専用カメラやiPhone・iPadのLiDARセンサーで空間を撮影すると、その場所の「デジタルツイン」が生成される。
ユーザーはPCやスマートフォンのブラウザから、その空間を自由に歩き回ることができる。特別なアプリのインストールは不要だ。URLを共有するだけで、世界中の誰もがアクセスできる。
現在、Matterportは不動産、建設、保険、小売、ホスピタリティなど幅広い業界で導入が進んでおり、世界中で数百万の空間がデジタル化されている。
Matterportで何ができるのか——5つの基本機能
1. 没入型3Dウォークスルー
空間内を自由に移動し、360度見渡せる。マウスやスワイプで視点を動かし、部屋から部屋へ歩くように移動する。写真や動画では伝えきれない「空間の広がり」や「動線」が、画面越しに体感できる。
2. ドールハウスビュー
建物全体を俯瞰する「ドールハウス」表示。建物をミニチュア模型のように上から見下ろし、回転させながら全体の構造を把握できる。間取りの説明に図面を広げる必要がなくなる。
3. フロアプランビュー
2D平面図のように各階のレイアウトを表示する機能。間取りの確認、面積感の把握に役立つ。ウォークスルーと平面図を行き来できるので、「今どこにいるか」が直感的にわかる。
4. 計測ツール
3D空間内の任意の2点間の距離を計測できる。家具の搬入可否、設備の設置スペース、窓の高さなど、現地に行かなくても寸法を確認できる。精度は撮影条件に依存するが、概算レベルの寸法確認には十分だ。
5. 情報タグの埋め込み
空間内の任意のポイントに、テキスト・画像・動画・外部リンクを埋め込むことができる。製品の横にスペック表を表示する、施工箇所に解説動画を貼るといった使い方ができる。空間そのものが情報メディアになる。
建設業界での活用シーン——「見せる」だけに留まらない
Matterportのバーチャルツアーは、建設業界ではすでに複数の局面で活用されている。
シーン1:ショールームのデジタル化
建材メーカーにとって、最もインパクトが大きい活用法だ。
物理的なショールームは「来場してもらう」ことが前提になる。立地によっては遠方の顧客にリーチできない。営業時間の制約もある。バーチャルショールームなら、24時間365日、全国——あるいは海外からもアクセスできる。
情報タグを活用すれば、各製品の横にカタログリンクや見積もり依頼フォームへの導線を設置できる。ショールームが「展示」から「商談の入口」に変わる。
シーン2:施工記録・アズビルトドキュメント
竣工後の建物を3Dスキャンして記録する「アズビルト(As-Built)ドキュメント」としての活用も広がっている。
従来の施工記録は写真と図面の組み合わせが一般的だった。しかし、写真は撮影者の視点に依存し、後から「あの角度の写真がない」という事態が起こりやすい。3Dスキャンならば、空間全体が記録されるため、竣工後に「ここの収まりはどうなっていたか」を確認できる。
リフォームやメンテナンスの際にも、現地調査の前に既存空間の状況をバーチャルツアーで確認できるため、初回訪問の精度が上がる。
シーン3:遠隔内見・遠隔確認
施主や関係者が現地に来られない場面でも、バーチャルツアーなら「見て」もらえる。
工務店であれば、施工中の現場をスキャンして施主に共有する使い方がある。「今こんな状態です」を写真数枚で伝えるよりも、空間全体を見せるほうが伝わる情報量は圧倒的に多い。
不動産分野では、物件の内見をバーチャルツアーで代替する動きがすでに定着している。遠方からの転居者や海外からの入居希望者にとって、現地に行かずに内見できるメリットは大きい。
シーン4:展示会・イベントの延長
展示会の自社ブースを3Dスキャンして、会期後もオンラインで公開するケース。期間限定の展示を「常設」に変える発想だ。来場できなかった見込み客に対して「展示会の様子をご覧いただけます」とURLを1つ送るだけで済む。
導入の流れ——何から始めるのか
バーチャルツアーの導入は、大きく3つのステップで進む。
ステップ1:撮影
対象となる空間を3Dスキャンする。Matterport対応のカメラ(Pro2、Pro3など)やLiDAR搭載のiPhone・iPadを使用する。1部屋あたりの撮影時間は数分〜十数分程度だ。広いショールームや複数フロアの場合はそれに応じた時間がかかる。
自社でカメラを購入して撮影する方法と、撮影から制作までを専門会社に一括で依頼する方法がある。
ステップ2:データ処理・編集
撮影データをMatterportのクラウドプラットフォームにアップロードすると、3Dモデルが自動生成される。その後、不要な映り込みのトリミング、情報タグの設置、ブランドロゴの配置などの編集作業を行う。
この工程の作り込み具合によって、バーチャルツアーの「完成度」が大きく変わる。単純なスキャンデータの公開と、情報設計されたバーチャルショールームでは、訪問者に与える印象も、問い合わせにつながる確率も異なる。
ステップ3:公開・運用
完成したバーチャルツアーは、URLを発行するだけで共有できる。自社Webサイトへのiframe埋め込み、メールでのリンク共有、QRコードでの印刷物への掲載など、活用方法は多岐にわたる。
公開後も、情報タグの追加・変更、新製品の情報更新など、デジタルならではの柔軟な運用が可能だ。物理的なショールームのように什器を動かす必要はない。
「撮影を頼む」か「自社で撮る」か
導入を検討する際に最初にぶつかるのが、この選択だ。
自社で撮影する場合
Matterport対応カメラ(Pro2で約50万円前後、Pro3は非公開価格)やiPhone・iPadのLiDARセンサーを使い、自社で撮影する。LiDARスキャンは手軽だが、専用カメラに比べると画質や精度に差がある。
自社で継続的に多くの空間をスキャンする予定があるなら、カメラの購入とMatterportアカウントの契約は合理的な選択だ。ただし、撮影テクニックや編集ノウハウの習得には一定の学習コストがかかる。
制作会社に依頼する場合
撮影から編集・公開までを一括で依頼する方法。自社にカメラや撮影スキルがなくても、バーチャルツアーを手に入れることができる。
制作会社のメリットは、撮影品質の安定性と、情報設計の知見だ。「何をどう見せれば問い合わせにつながるか」を理解した上で、ショールームの動線設計、タグの配置、CTAの導線までを一貫して提案してもらえる。
初めての導入であれば、まず1案件を制作会社に依頼してみるのが現実的だ。成果物を見て「自社で撮影する価値があるか」を判断しても遅くない。
まとめ——バーチャルツアーは「いつかやる」から「今、試す」へ
Matterportのバーチャルツアーは、もはや先進企業だけのものではない。3Dスキャン技術の成熟とコストの低下により、建材メーカーのショールーム、工務店の施工記録、不動産の内見——あらゆる場面で「空間をデジタルに残す」ことが現実的な選択肢になっている。
まず1つの空間を試してみること。展示会のブースでも、自社のショールームの一角でも構わない。「こんな見え方をするのか」を自分の目で確認する。その体験が、次の一歩を決めてくれるはずだ。
Across 3D — 空間を、デジタルに。
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