「BIMは高い」——その認識、いつの時代のものですか
2029年春、BIMデータ審査が原則化される。この事実を前にして、小規模工務店が直面する問いはシンプルだ。
自社でBIMを導入するか、それとも外注するか。
「BIMソフトは年間100万円」「専用PCも30万円以上」「人材育成に半年」——こうした数字を聞けば、多くの工務店経営者は「うちには無理だ」と結論づけるだろう。
だが、その判断は本当に正しいのか。「自社導入のコスト」と「外注のコスト」を冷静に比較したことがあるだろうか。 実は、外注市場にもさまざまな選択肢が生まれており、「BIMは高い」という前提そのものが変わりつつある。
本記事では、確認申請に必要なBIM図面・モデル作成のコスト構造を丸裸にし、工務店にとって最も合理的な選択肢を考える。
自社導入のコスト——初期投資だけでは見えない「本当の総額」
まず、BIMを自社で導入するケースを見よう。
初期投資
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| BIMソフトウェア(Revit等) | 年間 約48万円〜 |
| BIM対応PC(高性能GPU搭載) | 1台 30万円〜 |
| トレーニング・教育 | 約10万円 |
| 初年度合計 | 約90万円〜(1台体制) |
ただし、これは最小構成の話だ。設計者2名体制なら、PCとライセンスだけで年間170万円を超える。
隠れたコスト
金額だけでは見えないコストが2つある。
1. 習得に要する「時間」
BIMソフトの習得には3〜6ヶ月のトレーニング期間が必要とされる。この間、その設計者は従来のCAD業務と並行してBIMを学ぶことになる。小規模工務店で設計者が1〜2名しかいない場合、業務の生産性は確実に落ちる。
2. 二重業務の負担
BIMを導入しても、協力業者(大工、電気、設備)がBIMデータを使えない以上、従来のCAD図面も並行して作成する必要がある。BIM確認申請のためだけに、1棟あたりの図面作成工数が1.5〜2倍に膨らむ可能性がある。
1棟あたりのコスト換算
年間施工棟数で割ると、自社導入のコスト感が見えてくる。
| 年間棟数 | 初年度コスト(1台体制90万円として) | 1棟あたり |
|---|---|---|
| 10棟 | 90万円 | 9万円 |
| 30棟 | 90万円 | 3万円 |
| 50棟 | 90万円 | 1.8万円 |
数字だけ見れば、年間30棟以上なら「1棟3万円」と安く見える。だが、上記の習得時間と二重業務のコストは含まれていない。 設計者の人件費(年収400〜600万円)を考えれば、生産性低下の実質コストは無視できない。
外注の費用相場——選択肢は「高いBIM代行」だけではない
次に、外注の選択肢を整理しよう。
主な外注先と費用
| 外注先 | 費用相場 | 納期目安 | 含まれるもの |
|---|---|---|---|
| 設計事務所(確認申請代行) | 10万〜30万円 | 1〜2週間 | 図面作成 + 申請書類 + 申請手続き |
| CADオペレーター(図面作成のみ) | 9万〜18万円 | 約1週間 | CAD図面のみ。申請は自社で行う |
| BIM代行サービス | 30万円〜 | 約2週間 | BIMモデル + IFCデータ + 図面出力 |
| 海外外注(ベトナム等) | 7万〜15万円 | 1〜2週間 | 図面作成。日本の法規対応にリスクあり |
図面1枚あたりの単価
CADオペレーターへの外注では、図面の種類によって単価が異なる。
| 図面種類 | 1枚あたり(A3) |
|---|---|
| 配置図 | 7,000〜12,000円 |
| 平面図 | 7,500〜15,000円 |
| 立面図 | 12,000〜15,000円 |
| 断面図 | 12,000〜15,000円 |
| 矩計図 | 15,000〜20,000円 |
木造2階建て住宅(30〜50坪)の確認申請には13〜15枚程度の図面が必要で、CADオペレーターに全枚数を依頼すると合計9万〜18万円が目安となる。
工務店のリアルな声
小規模工務店(年間10〜50棟)へのヒアリングからは、一貫したメッセージが聞こえてくる。
「1棟5万円くらいなら外注したい。 でも30万円は無理。」
「CAD図面を渡したら、BIMモデルを作ってくれるサービスがあれば助かる。」
「確認申請だけBIMで出せればいい。施工では使わない。」
需要はある。だが、既存のBIM代行サービス(30万円〜)は高すぎる。 ここに大きな市場のギャップが存在している。
自社導入 vs 外注——5年間のトータルコスト比較
3年後の義務化を見据えて、5年間のトータルコストを比較してみよう。年間30棟の工務店を想定する。
パターンA:自社導入
| 項目 | 初年度 | 2年目以降/年 | 5年間合計 |
|---|---|---|---|
| ソフトウェア | 48万円 | 48万円 | 240万円 |
| PC | 30万円 | — | 30万円 |
| 教育 | 10万円 | — | 10万円 |
| 保守・メンテ | — | 20万円 | 80万円 |
| 合計 | 88万円 | 68万円 | 360万円 |
1棟あたり: 360万円 ÷ 150棟 = 約2.4万円
※人件費・生産性低下のコストは含まず
パターンB:全棟外注(BIM代行30万円/棟の場合)
| 項目 | 5年間合計 |
|---|---|
| BIM代行 30万円 × 150棟 | 4,500万円 |
1棟あたり: 30万円——これでは論外だ。
パターンC:全棟外注(10万〜15万円/棟の場合)
| 項目 | 5年間合計 |
|---|---|
| 外注 12.5万円 × 150棟 | 1,875万円 |
1棟あたり: 12.5万円
比較まとめ
| パターン | 1棟あたりコスト | 初期投資 | 社内リソース負荷 |
|---|---|---|---|
| A. 自社導入 | 約2.4万円(人件費除く) | 88万円 | 大 |
| B. 高額外注 | 30万円 | なし | なし |
| C. 適正価格外注 | 約12.5万円 | なし | なし |
年間30棟以上の規模があり、BIMを設計業務にも活かす意欲があるなら、自社導入は長期的に有利だ。だが、「確認申請のためだけにBIMが必要」という工務店にとっては、1棟10万〜15万円の外注が最もバランスの取れた選択肢になる。
外注先を選ぶときの5つのチェックポイント
BIM外注先は増えつつあるが、品質のばらつきが大きい。以下のポイントで選定してほしい。
1. LOD300に対応しているか
確認申請にはLOD300(実施設計レベル)が必要だ。LOD200(基本設計レベル)では、正確な寸法や属性情報が不足しており、審査を通過できない。「BIMモデルを作ります」と謳っていても、LODレベルを明示していないサービスには注意が必要だ。
2. IFC2x3で出力できるか
BIM図面審査では、IFC2x3(Coordination View 2.0)形式でのデータ提出が標準とされている。独自フォーマットでしか出力できないサービスでは、審査機関への提出に支障が出る。
3. 確認申請の実績があるか
BIMモデルを作ることと、確認申請を通すことは別のスキルだ。建築基準法への理解があり、審査機関とのやり取り経験がある外注先を選ぶべきである。
4. 図面とIFCの整合性を担保できるか
入出力基準では、PDF図面とIFCモデルの整合性(寸法・面積・高さの一致)が求められる。図面だけ作って終わり、ではなく、IFCデータとの整合性チェックまで行ってくれるかを確認しよう。
5. 入出力基準適合申告書を作成してくれるか
BIM図面審査では、入出力基準適合申告書の提出が必須だ。使用したBIMソフトウェア、IFCバージョン、出力図面の種類、整合性チェックリストを記載する書類である。ここまでカバーしてくれるサービスは、まだ多くない。
まとめ——「コスト」で考えるBIM確認申請対応
| 選択肢 | 1棟あたりコスト | こんな工務店向き |
|---|---|---|
| 自社導入 | 約2.4万円〜(人件費除く) | 年間30棟以上で、設計業務にもBIMを活用したい |
| 設計事務所に代行 | 10万〜30万円 | 申請手続きまで丸投げしたい |
| BIM Express等の外注 | 10万〜15万円 | 確認申請用BIMモデルだけ欲しい。コストを抑えたい |
2029年のBIMデータ審査原則化まで、あと3年。「義務化されたらどうしよう」と不安を抱えたまま3年を過ごすか、今のうちに1件試して見通しを立てるか。
答えは、もう出ているのではないだろうか。
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